むかし
 むかしむかし
 うンとむかぁしに
 惑星が創られた。
 まぁるくおおきな星だった。

 名前をリオネという。

 しかし惑星の創り手は不器用だったようで、これがどうも上手く自転しない。
 これでは生物が創れないではないか。
 困った創り手は色々と手を加えてみる。
 大地の一部を空に浮かせてみたり、水を減らしてみたり、逆に足してみたり、衛星を二つに増やしてみたりしてみた。
 だけどどうしても上手くいかない。

 腹を立てた創り手はいちから創り直そうと考えて、大きな杭を惑星に打ち込んだ。
 まっぷたつに割って壊してしまう算段だったのである。
 だが杭は惑星の中心にまでしか届かなかったので割れなかった。
 どころか、どういう訳だろう惑星は安定して自転するようになったのである。
 創り手は大層喜んで、この杭を一本の樹に変じた。

 緑生い茂る若木を創り手はユグドラシルと呼んだと云う。

 惑星リオネの全土に伝わる創世の伝承だ。
 巫女は謡う、この樹が枯れ朽ち果てたときにこの世界は滅ぶだろうと。
 伝承を信じる者達はだからこの樹を探し求め続けている。
 神々よりも先に創られ、地上で最も旧くから存在し、この世界を護り見つめ続けてきた一本の樹を。
 世界樹を。


「見つけてどうするんですかー?」

 十六夜少年の左斜め前の席に座る同級生が不意にそんなことを訊いた。
 神話の授業中のことである。
 聖書を纏めた神話の教科書をぱらぱらと捲っていた十六夜はその質問に顔を上げた。
 朗々と聖書を読み解説していた担任の女教師もまた顔を上げて、質問をした生徒を向くと顎に指を添えてうーんと唸った。

「さぁ、どうするのかしらね。考古学的価値は高いでしょうし、なんか色々調べさせてもらうんじゃないかな」

 教師らしかぬざっくばらんな解答である。まぁそれが彼女、未希先生の味なのだけれども。
 別の同級生が手を挙げた。ぬいだ。

「その世界樹も、ジィさんみたいに受肉しているんでしょうか」

 受肉、というのは木や花や風や水や、そういう動けない物や掴めない現象が人格を持ち仮初めの肉体を具現して活動することである。この世界の総人口の三パーセントくらいはこの受肉した物達が占めているらしい。

「さぁ、どうかしらねぇ。そういうふうにも言われているけど、何せまだ誰も見つけたことが無いらしいから」

 ――世界樹はこの世界の事を何でも識っていて、だからどんな質問にも答えをくれるんだよ。
 そう言いかけて十六夜は飲み込んだ。そういう都市伝説があるというだけの話である。それこそ根も葉もない噂話だ。

「でも、そうだと素敵ね」

 教師の言葉にひとり強く頷いた。