時刻、十六時十四分。大沢朋幸はアパートの玄関を潜り外へ出た。
 真李亜も又吉も魔王も置いて一人である。これは自分のいない間にストーカーが来たり、そうまで直接的でなくともストーカーからの電話なんかがあったりしたときに真李亜を一人にはしていたくないという朋幸の主張によるもので、魔王は最初「俺も行く」の一点張りであったが、頼むよ、お前しかいないんだという言葉にあっさり機嫌を治し留守番を快諾したのだ。ちなみにそのあまりの扱いやすさに後ろで残り二名が片や呆れ片や嘆いていたけれどその辺りは割愛してもいいだろう。

 目的地は近所のスーパーで、目的の物はアイスクリームである。
 今日はアイスクリームが全品半額引きなのだ。

「えっと、マリアが雪見大福で、魔王がガリガリ君ソーダ味。又吉さんはいらないっと」

 ちなみに何故産まれて一週間足らずの魔王に好物のアイスがあるのかは不明である。しかも財布の味方ガリガリ君。魔王、安上がりだ。ちなみにを重ねるが、朋幸の目当てもガリガリ君でこちらは梨味である。ガリガリ君シリーズは朋幸も昔から好きなので。

 駐輪場を素通りし、花壇へ視線を投げつつ歩道へと出て、
 背後から呼び止められた。
 振り向けば金髪ロングに碧眼の美丈夫が爽やかな笑顔を浮かべつつ片手をあげ歩いてくる。朋幸も喜色を浮かべて手を振り返した。

「よぅエドガー、今朝ぶり。お出掛け?」
「ヤー、お買い物デス」

 どうやら目的地は同じらしい。

「俺も買い物」
「ソですか、ちょうどよかたです」
「丁度良かった?」

 はてなと首を傾ける朋幸へ、エドガーはポケットから取り出したものを差し出して見せた。なんだろうと覗き込めば、デフォルメされた黒猫と白兎がつぶらというには若干精巧過ぎる瞳で朋幸を見返している。
 それは、小さなマスコットだった。

「約束のモノです。マスコットヒェン」
「え、もう出来たのか!?」

 約束したのは今朝だというのに。
 ヤー、とエドガーは朗らかな笑顔で頷く。

「八時間くらいありマシたから。三時間あれば一個出来マス」
「すげー……っつか、あれからぶっ通しで作ってくれてたんだ。すっげぇ嬉しいけど、なんか悪い気もするな。他にも仕事あるだろうに」
「そんな事はありマセン。ちかごろは大きなモノばかりでしたのでたのしかったデス」
「そうか? ならよかった。大事にするよ」

 などというやり取りを交わしてからは今朝の焼き写しのようにスーパーまでの道を並んで歩く。遊具が多い割に不人気ならしい子供一人の姿もない公園の前を通り、ランドセルを背負った子供どころか自転車一台、車一台通らない信号を渡って、やはり開いている様子の無い歯科病院を左へ曲がる。あとは大通りに添ってまっすぐ歩けば目的の建物が見えてくる
 はずだったのだが。

「うん?」

 歯科病院を曲がった少し先に、男が仁王立っていた。
 ただ立っているだけではない。朋幸らの方を真正面に向いて、腕を組み、仁王立ちだ。しかも日本人ではない。金髪碧眼の、二十歳前半くらいだろう年齢の、透けるように白い肌の異邦人だった。同じ金髪碧眼と描写しても隣に立つエドガーとはまた色合いが違っている。エドガーのそれは色素が随分と薄く、色のついた水晶などを思わせるが、男のそれは色合いが濃い。碧眼もエドガーのそれがグリーン寄りなのに対し、男のものは代表的なサファイアの、深い深い染みこむようなブルーだ。そんな双玉を細くし、穿つような目つきで此方を見ている。
 そう、男は朋幸とエドガーをはっきりと睨んでいた。
 ちなみに、朋幸にはまったくもって見覚えのない相手である。なので、同じ外国人ということで勝手にエドガーの知人だろうと予想をつけた。

「エドガー、知り合い? 俺先に行ってようか」
「……いえ、初対面です」

 初対面らしい。あんなに睨んでいるのに。

「トモユキのおしりあいでは?」
「いや、俺も知らね」

 となると、もしや人違いだろうか。それとも単に道端で仁王立ち腕を組んで来る人を射殺さんばかりに睨みつける日課のある変わった人なのかもしれない。

「あ、もしかしてドッキリかな。一昔前にこういう趣旨の番組やってたような」
「おい、女」

 話しかけられた。
 尊大というのは成る程こういう態度をこそ言うのかと思わず感心してしまうほど尊大で、居丈高で、遥か上から目線の声音だった。その上、氷片でも散りばめられているかのごとく冷たい。さすがにこんな態度をドッキリ目的で録るのは、マズイだろう。オンエアした途端にクレームの電話が殺到するのは確実だ。そのぐらいに怜悧な声だった。その声で聞く者の心臓を凍りつかせ殺したがってでもいるような、とにかく冷たい声。

「……俺か?」
「他に女がどこにいる」

 一応確認してみたが、やはり朋幸に話しかけたらしい。変わらぬ調子で冷え冷えと応えられ、ふぅん、と双眸を細くする朋幸。
 よくわからないが、
 喧嘩を売られているらしい事はよく分かる。
 能面のように表情無く雄弁に見下してくる男に、朋幸は少なからず腹を立てた。一歩、靴を高らかに踏み鳴らし前へ。男を正面向いて仁王立ち、威嚇するように腕を組む。
 目線は朋幸のほうが十センチばかし高かった。
 それでも互いに見下し合う。

「なんだよ、ボーヤ」
「今から質問をする。心して答えろ」

 紛うこと無く命令文での言葉に、嗤う。

「なんだ、まるで返答次第では殺されるみたいな雰囲気だなオイ」
「察しが良いな、その通りだ」

 当たり前のように肯定された。空気が凍りつく。否、場は最初から凍りついているかのようだった。スーパー近くの、しかも大通りだというのに先程から人一人、自転車一台、車一台通らない。
 物音一つなく、静かだ。
 その静寂を眉一つ動かさずに凍らせ踏み砕くような、徹底した怜悧で鋭利な口調声音でもって男は言う。

「この近くにある、アパートメント・カーサドマーニの、六一二号室に住んでいるな」

 文だけを見れば問いかけの体をしているというのに、男の言葉はまるっきりの断定口調だった。それに朋幸は米神をひくつかせる。男が口にしたそれは、真李亜やエドガーの住むアパルトメントの名称であったのだ。そして部屋番号も。
 何故、男がそれを知っているのか。

「……そうだな、住んでいる」

 実際は宿泊しているだけだが、それでも朋幸はあえてきっぱりと言い切った。
 まるきり挑発するように。

「そこに今朝から男もいるな」
「いたら何だって言うんだ。お前誰だよ」
「そうか」

 朋幸の問いは無視らしい。男は視軸を横へ滑らせて、今度は朋幸の一歩後ろに立つエドガーを見た。

「貴様もあのアパートメントに住んでいるな」
「……でしたら、どうしますか」
「七一二号室だな」

 断定口調にエドガーは何も言わなかった。あるいは男が朋幸らの部屋番号を言い当てた時点で予想していたのかもしれない。
 もしかしたら、男が腕を組むことで隠していた武器の存在までをも。
 その黒光りする物体が何なのか飲み込めず、朋幸はきょとんと目を瞬いた。
 滑らかな動作で銃口を向けられても、わからなかった。
 ぐいっ、と唐突に引っ張られ、タンタンッ、と笑ってしまうような軽い音が地面を抉る。

「走って、トモユキ!!」

 エドガーの怒声に引き摺られ、朋幸は事態を飲み込めないまま反転し駆けた。ついさっき曲がったばかりの角を曲がる。

「え、え?」

 なんだいまの。と、走りながら考える。
 男が持っていた物。あれは銃だ。拳銃だ。
 エドガーに引っ張られて道とも呼べない隙間に入る。タンタンッ、とまた背後で音。
 銃で、撃たれている。
 銃で撃たれている!

「えええ!? ちょ、おま、日本だぞここ! なんで銃なんかあんだよおかしいだろ!!」
「銃なんてどこにでもあるでショ!」
「日本なのに!!」

 叫んだところで現状は変わらない。ひとまずエドガーに引っ張られるがまま更に曲がって、そこでエドガーは立ち止まった。壁に背中をくっつけ、建物を盾にし歩道の様子を探る。とは云ってもさすがに顔を出すわけにはいかない。路地へ入ったところはばっちり見られているのだろうから、そんなことをすればいい的だ。ではどうするのかと視ていれば、朋幸の視線を受けつつエドガーは内ポケットから手鏡を取り出した。手鏡、と一言で言ってしまうには、なんというか、装飾が凝っていたが。有り体に言えば高そうだ。真円を描く取っ手もない鏡面を立体的で複雑な紋様の彫刻が囲んでいる。少なくとも、どう見積もったところで百円均一では買えないだろう。
 それが瞬間的に撃ち抜かれた。
 様子を窺うために壁からほんの少し、半分も出す前に撃ち抜かれた。躊躇無く、しかも正確無比だ。壁から出した部分から見た、ど真ん中に穴が開いている。

「すげぇ……」
「感心している場合ではないでショウ」

 窘められた。さしもの朋幸もご尤もだと思ったので口を閉ざす。
 これはつまり、顔を出したら自分達の頭がこうなるという事なのだから。

「どうしよう」
「逃げまショウ」

 エドガーの答えはハッキリしていた。

「銃を持っている相手と、向かい合うのは、自殺行為デス。逃げまショウ」
「そりゃそうだ」

 幾ら鍛えていて、格闘技を学んでいるといっても、飛び道具を出されてはどうしようもない。朋幸はケンカが強い方だけれど、ケンカが強い程度なのだ。銃を構えている上に使いこなしているような相手と正面切ってやりあえるほど超常的には強くないし、やりあおうと思うほど愚かしくもない。それはエドガーだってそうだろう。だからそのまま奥へ進む事にして
 カンッ カランッ ――と、
 背後で何か固い軽い物が転がる音がした。

「!!!」

 息を飲んだエドガーが血相を変えて朋幸へ抱きつく。そしてあちこちぶつけながらも電光石火で目についた曲がり角へ飛び込んだ。
 瞬間、音が消え失せた。
 僅か遅れて、衝撃。
 音が消えたと感じたのは本当に瞬間的なもので、朋幸の聴覚は壁の向こうに爆発音と、それから、何か不可解な音を多数拾った。何か硬いものが硬い場所へ幾つも突き刺さるみたいな。

 朋幸には確認できなかったが、その音の正体は飛び出した多量の鉄片で、投げ込まれたのは破片手榴弾と呼ばれる、殺傷性の非常に高い爆弾だった。その破片を靴裏で踏みつける音がひとつして、それを契機にがばりとエドガーが上体を跳ね上げた。狭い空間に苦心しながらも性急に朋幸を引っ張り起こす。

「走って、急いで!」
「む、そちらか」

 恬淡とした声だった。先程対峙していた時と変わらない、冷たいばかりの声だった。心臓が凍らされそうになったけれど、慌てて二人は駆け出した。駆け抜けて道へ出る。抜け出た先は細い、狭い道だった。左手のかなり先に目的地だったスーパーが見える。さすがに人目のある場所でまでは銃だの爆弾だのを使えないだろう。ならばあちらへ行けばひとまずしのげる。そう思った朋幸はしかし、妙なことに気がついた。

 スーパーに誰もいない。

 眼を、瞠る。どういうことだよ、と吐息だけが独白した。遠目だからはっきりとは断定できないが、レジに店員すらいないのではないか? あのスーパーは、今日は休業日だっただろうか。いや、チラシには年中無休と書いてあったはずだ。いやいや、それ以前に、朋幸は今日の分の広告を確かに見ている。

 そういえば、
 朋幸は、細く伸びる道の左右を交互に見た。

 静かな通りだ。左右はおろか、上を見上げたとて鳥の一羽も翔んではいない。民家に囲まれているというのに、話し声どころかTVの音すら漏れ聞こえて来ない。それは、ここだけでは無い。ここへ至るまでの道程で、動くものなど何一つ見かけなかった。
 自分達の他に、誰も、見てはいない。

「どういうことだよ……」
「いいから、逃げまショウ!」

 強く引っ張られるのに逆らわず走り出す。走りながら忙しなく周囲を見た。けれど誰もいない。駆ける足音さえ飲み込まれそうなほどに、静寂だ。
 どうして、誰もいない?
 どうして、自分達の他に、誰もいない!

「どういうことだよ!!」

 叫びに銃声が被さった。
 振り向けばたった今曲がった角の壁に銃弾が二発食い込んでいる。

「とにかく走って!」
「ちっくしょう!!」

 わけわかんねぇ! 怒鳴りながら足を速める。走らなければ殺されるのだ。目についた角を片っ端から曲がって、銃声に追い立てられながら二人はがむしゃらに駆け抜けた。あんまり出鱈目に走ったものだから自分達が今何処を走っているのかなんてまったくわからなかったけれど、脳裏に地図を描く暇など無い。銃声は一定の間隔を保って二人を追いかけてくる。まるで牧羊犬に追い回される羊にでもなった気分だ。毒吐きながら足元で跳ねた銃弾に右へ曲がる。

 曲がった先は公園だった。
 ジャングルジムとか、ブランコとか、シーソーとか、滑り台とか、砂場とか、鉄棒とかがギュウギュウと詰め込まれ、申し訳程度に駆け回れるスペースが残されている。そんな今時古風な公園だった。どうやら幼児を対象としているらしく遊具のサイズが全体的に小さい。
 つまり、隠れられる場所が無い。

「……やべぇ」

 我ながらいい勘してんじゃねぇか、と思考を明後日に飛ばす朋幸。確かに今の二人は、さながら牧羊犬に柵中へ追い込まれた二頭の羊である。……否、牧羊犬ならば命の危険は無いか。それを言うならば相手は牧羊犬の技術を持った狼である。
 遠吠えのように背後で二発、銃声がした。

「!!」
「場を固定した。この空間からはもう出られない」

 真っ直ぐ天空へと向けていた銃口を二人へ向け、西洋人らしかぬ抑揚に欠けた口調で男が言う。けれど、告げられた言葉の意味はまったくわからなかった。
 場、とか、空間、とか、いきなり何の話だ。

「に、日本で銃なんか撃ちまくってんじゃねぇよ! 警察に捕まっちまえ!」
「言われるまでもなく、ここら一帯の空間は制御してある。銃を撃とうが手榴弾を使おうが、RPGを使ったって誰も気づきはしない」
「……何言ってんだお前?」

 思わず状況も忘れて眉根を寄せる朋幸。男の言う事は最初から徹底的に意味が行方不明である。意味には早急に帰ってきてくれと願わずにはいられない。と云うかそもそも、理解してもらおうという配慮がまったく感じられないのだ、男の言動からは。
 無表情のまま、銃口を向けたままに、男はフンと鼻を鳴らした。感情の吐露が極小で解り辛いことこの上ないが、もしかしたら鼻で笑ったのかもしれない。

「この状況でもまだとぼけようという度胸だけは褒めてやろう」
「あ?」

 とぼけるって、何を。

「まぁいい。そんな事は俺相手に無意味だったと、アケローン川の畔で後悔するがいい」
「……えーっと」

 どうやら、男に会話する意思は無いらしい。なんというか、言葉が通じない。困惑しつつエドガーの方を見ると、なんと緊迫した様子で男を睨み据えていた。どうやら男の言う事が理解できないのはこの場で朋幸だけらしい。そんなまさかと目を剥いたが、エドガーは朋幸が困惑している事にすら気づいていないらしかった。やっぱこいつら知り合いなんじゃねぇの、とまで思う朋幸。
 いや、朋幸の予想では、この男こそが真李亜のストーカーの筈なのだが。部屋の番号まで知っていたし。
 まぁ言葉が通じないあたりはストーカーっぽいか。
 そんな戸惑う朋幸と睨むエドガーの視線の先で、
 カシャン、と
 唐突に男は拳銃を地面へ落とした。

「……ん?」

 凶器を捨てた手には、杖が握られている。
 細い、金属製の杖だった。杖と云うより棒だろうか。講師なんかが黒板や図表を指し示すのに使う、指示棒によく似ている。全体的に銀色で、先端に青い宝石が嵌めこまれていて、長さは目測で二十センチから三十センチといったところか。その先端を、男は銃口を向けていた時のように二人へ向けている。あたかもその杖が拳銃以上の凶器であるかのように。
 はて、と朋幸は首を傾げるしかない。

「お前、何やってんの」
「ほう、杖を向けられてまだとぼけるか。まったく大した度胸だな」
「いや……えー……?」

 どうしたものかとエドガーを見る。けれど相変わらず、否、先程以上に緊迫した様子で、瞬きすらせずに男を睨み据えていて、朋幸の方を振り向く気配すら無い。もしかしたら、やっぱり二人は知り合いで、これは手の込んだドッキリなんじゃあ……なんて思っていると、男の持つ杖が発光し始めた。陽の光の下ではともすれば見逃してしまいそうなほど淡いその光は、螺旋を描きながら杖を上って行き、宝石の中へと吸い込まれていく。
 心なしか宝石が青みを増したような気がした。

「トモユキ、下がって!」

 エドガーが叫ぶ。
 被せて男が唱う。

「Explodieren Sie」

 後方で何か凄まじい爆発音が轟いた。

「へ?」

 引っ張られ、傾いだ体を捻って振り返ると、滑り台が無くなっていた。
 砂場が半分のサイズになっていて、それらのあった場所には、穴が、開いていた。周囲には滑り台だったものの破片がばらばらと降り注いでいる。

「………………は?」
「走って!」

 言われるまま、引きずられるがままに走る。

「zerstoren。brechen。zerschlangen」

 ジャングルジムが見えない鉄槌でも振り下ろされたように一瞬で潰れ、シーソーが半ばから真っ二つに折れ、花壇がごっそりと抉れ砕けて散らばった。朋幸は開いた口が塞がらない。

「おい、おいおいおいおいおいおい! ちょ、どういうことだよ、なんだ今の!」
「魔法に決まっているだろう」

 不機嫌な声が届く。この上更にとぼける気かと苛立つような、

「……は?」

 まほう。魔法って、言った。
 朋幸の脳裏に映像が甦る。朋幸を拉致した魔王が、検問で全てをなぎ倒したあの時の記憶。
 確かに、よく似ている気がした。
 不可視で、理解できないという点などそっくりだ。

「お前、何なんだよ」

 問いかける。立ち止まる事の危険性はなんとなく察してはいたけれど、それでも問いかけずにはいられなかった。

「お前、何なんだ」

 睨む先で男は眉間に皺を寄せた。まるで、何故そんな分かりきった事を聞くのかと責めるように。眼差しは、そんな分かりきったことを訊いて何を企んでいるのかと警戒を露わにともを穿ち、吹雪く声音には憤りを剥き出しにして、そうでありながら、そう名乗れる事がこの上ない誉れであるかのように胸を張り、

魔女(ウィッカ)だ」

 男は、告げた。


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Buck / Top / Next