こんなものは恋なんかじゃない。
 愛でもない。
 こんなに醜く浅ましいものに
 そんな美しい名前がつくはずが無い。





















 体を重ねて
 笑いながら言葉を交わして
 映画を見たり食事に行ったり
 そうやって他愛も無いことを共有する。



















 けれどこれは恋愛じゃない。
 あんたが見てるのは別の人だから。
 別の人を見ているあの人だから。

















 あたしはあんたの暇つぶし。
 相性が良かったからという、
 それだけの理由で選ばれた。
 愛してるの言葉も無い。



















 なんて卑怯な男
 なんて残酷な男
 けれど一番醜く愚かなのは
 分かっていて離れられないあたしだろう。
 あんたはそんなあたしを知っている。
 本当
 ムカツク
















 今日もまた
 あんたはあの人を見つめてる。
 お決まりのデートコースだって、
 いつもあの人の帰り道。
 名前も知らない人と腕を組んで歩いてるあの人。
 あたしの方を見ようともせずに
 あんたは二人を見つめてる。
 

















 告白すればいいじゃない
 逡巡した後で言った言葉に
 あんたは笑った。
















 あの人が幸せならそれでいい。
 囁くような言葉に反吐がでる。
 殴ればよかったのかもしれない。
 だけど、

 そう

 と返すだけ。
 無関心なフリをする。
 なけなしのプライドを掻き集めて。



















 
俺を殺してみませんか?
 ふざけた口調と真剣な眼差し。
 台所に立つあたしに提案する。
 手に取った包丁の柄を握り締め、
 それをまな板に突き立てる。


























 あんたなんか、殺す価値も無い。





















 吐き捨てた言葉に、
 あんたはきっと笑っただろう。

















 自分と言う籠の中に、
 あたしという毒蛇を飼ってるあんた。



















 何のためにあたしを拾ったんだろう。
 何のために傍に置くんだろう。




















 擦り寄ってきたあたしを捕まえて、
 そのまま水底深く沈めてくれれば良かったのに。
 或は滾る炎の中に放ってくれれば良かったのに。
 そうしたらあたしはもっと
 綺麗なままでいられたのに。
 こんな汚い醜い感情を、
 抱えることも無かったのに。



















 気まぐれに愛でて
 気まぐれに突き放して
 何がしたいのか解らない。
 解らないフリをする。






















 あんたの一番近くにいるのは
 まだあたしだから。










 大ッ嫌い。
 うん俺も。


 そんなやり取りを繰り返す。
 何度も何度も何回も。

















 こんなものは恋なんかじゃない。
 愛でもない。
 こんなに醜く浅ましいものに
 そんな美しい名前がつくはずが無い。

 ・・・ついてたまるもんか。


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